「AIで自分たちで作れますか」に、作る側が正直に答えます——内製が向く場合と、やめたほうがいい一線
公開 2026/10/03 / 更新 2026/10/19 / 執筆:宇川 和樹(合同会社アプローズプロモーション・名古屋)
「AIを使えば、うちでも自分たちで作れるんじゃないですか」
この1年で、この質問をいただくことが増えました。しかも値切るために聞いているのではないのが特徴です。多くの場合、理由はこうです。新しく始める事業なので、まず自分たちで分かるようになりたい。外に出すのは、分かってからにしたい。
開発を請け負っている会社に、この質問をするのは勇気が要ると思います。ですので、作る側として正直に答えます。
この記事の要点(先に結論)
- 作れます。 プログラマーがいない会社でも、AIを使って動くものを作っている人は実際にいます
- ただしただではありません。かかるのは利用料ではなく、あなたの時間です。そして失うのは金額ではなく、新規事業が立ち上がる時期です。数え方を下に書きます
- やめたほうがいい一線は2つ。①お客様に出す(他人の個人情報を預かる) ②直し続ける人が社内に1人もいない。新規事業なら①の答えはもう「はい」なので、①は作る前の話です
- 持っていくものは、画面のイメージ1枚です。 相談するかどうかを決める前に、手元に用意していただくのはそれだけです(最後の節に書きました)
まず、「作れます」のほうから
ここ1〜2年で、文章で指示するだけでプログラムを書く道具が実用になりました。表計算の集計、社内の問い合わせに答える仕組み、簡単な予約の画面——このあたりは、プログラミングの経験がない方でも、時間をかければ形になります。
実際、AIの使い方を話し合うオンラインの集まりでは、社内のDXの仕組みを自分で作り、その成果で部署が新しく立ち上がったという方がいました。作れるかどうかで言えば、答えははっきり「作れる」です。
道具の名前も隠さずに書きます。文章を書くAIのチャット画面は、ファイルを作ったり直したりするのは得意ではありません。 その用途には、同じ会社が出している開発用の道具(Claude Code、ChatGPTならCodex)を使います。できたものを公開する先は、小さなものなら無料から始められるサービス(Cloudflareなど)があります。
ここまでは、調べれば出てくる話です。問題は、この先です。
内製は「ただ」ではありません——失うのは金額ではなく、立ち上げの時期
相談の場でいちばん驚かれるのが、ここです。AIの利用料は、上位のプランでも月に数千円から3万円ほど。会社の支出としては小さい金額です。
本当にかかるのは、時間のほうです。 目安として、こう数えてみてください。

目安は1本だけ覚えてください。本業の合間なら、3か月です。 専任を1人立てて毎日まとまった時間を取れるなら1か月ですが、新規事業の立ち上げ担当に専任は付きません。ですからこの記事は、図のとおり本業の合間に1日2時間=3か月で通します。図の130時間は、小さな道具を1つ作る場合の目安で、作る物によって変わります。
ここで多いのが「思ったより簡単そうだけど、思ったより時間がかかる」という感想です。動くものが出るのは速い。動かないところを直すのに時間がかかるのです。
この130時間を、時給で換算しないでください
換算すれば、数十万円ぶんという数字が出ます。新規事業の予算から見れば小さく、しかも現金は1円も出ていきません。つまり内製は、金額で数えると必ず安く見えます。 金額で数えた時点で、判断を間違えます。
「130時間なら1人月もない。なぜ3か月かかるのか」
代表に出すと、まずここを聞かれます。もっともな質問です。1人が1か月働く時間を160時間とすれば、130時間は、担当1人の1か月分にも届きません。
答えは、工数と暦を分けることです。
- 工数で見れば、1か月に届きません(約130時間)。ここは代表の計算のとおりです
- 暦で見れば、3か月。1日2時間ずつの細切れでしか取れないので、同じ130時間が3か月に伸びます
問題は、この3か月のあいだ、売り出しが待たされることです。 物ができるまでは売り始められないので、ほかの準備が先に済んでも、売り出しは道具の仕上がりを待ちます。本業の合間に作ると、その待ちが3か月です。 売上が立ち始めるのも、その後になります。
途中で止まった場合、手元に残る物はゼロです
ここが建物と違うところです。建物は半分でも建っていますが、半分のプログラムは、半分動くのではなく、動きません。 3か月使って形にならなければ、使った3か月と、やり直す3か月の両方が要ります。売り出しまでの待ちは、3か月ではなく半年になります。
代表に説明するための3行
ここまでを、そのまま持っていける形にすると3行です。
工数は1か月に届きません(約130時間。小さな道具を1つ作る場合の目安です)。ただし本業の合間なので、暦では3か月かかります
物ができるまでは売り始められないので、売り出しは道具の仕上がりを待ちます。その待ちが3か月、形にならなければ半年です
その代わり、中身が自分たちで分かるようになります。 外に出すときの判断も、自分たちでできるようになります
「数十万円ぶんの手間がかかります」では、代表は判断できません。現金が出ていかないからです。引き受ける価値があるかどうかは、費用の話ではなく、事業の時期の話として決めるものだと思います。
なお、ご依頼いただいた場合の金額は、作るものの規模で大きく変わるのでここでは出しません。並べて比べたい方には、お話を伺えばその場でお答えします。
内製が向いているもの、向いていないもの

向いているのは、社内で自分が使う道具です。 集計、下書き、社内の検索。止まっても誰にも迷惑がかからず、おかしな結果が出たらその場で自分が気づけるものです。
向いていないのは、お客様が使うものです。 会員登録のある画面、お金のやり取り、お客様の連絡先を預かる仕組み。止まると商売が止まり、間違いに気づくのがお客様になります。
実際の挫折談もあります。先ほどのオンラインの集まりでは、社内の情報を外に出したくないという理由で、社内のサーバーにAIを置いて自作した方が2人いました。結果は「遅すぎて断念」。もう1人は案件登録から見積・請求・入金までを自動化している最中でしたが、こうこぼしていました。
人間のチェックが必要で、時間が減るようで減らない
これは内製が下手だから起きたのではありません。「作る」と「仕事で毎日回す」の間に、もう一段あるということです。
私たちの作り方も、開いておきます
公平のために、自分たちのやり方も書きます。当社の開発も、8割はAIが書いています。 残りの2割を、私ともう1名(海外在住の技術者)が目で確認しています。
目で見ているのは、たとえばこういう所です。
- 見せてはいけない情報が、プログラムの中に書き込まれていないか(鍵やパスワードの類)。——これが書き込まれたままでも、画面は普通に動きます。 症状が出ないので、分かるのは外から使われた後です
- 悪意のある操作をされたときに、守れる形になっているか。——こちらは試されるまで分かりません。 自分たちが正しく操作している限り、何も起きません
このうち、これだけはご自分でできます。 道具も知識も要らない2つです。
- 鍵やパスワードを、AIが書いたプログラムの中に直接書かせない。 AIに「この値は設定ファイルから読む形にして」と頼めば書き直してくれます。頼まないと、そのまま書き込まれます
- 試している間のものを、「公開」の設定にしたまま置かない。 プログラムの保管先や、試しに出したページの設定が「公開」になっていないか、作った直後に一度ご自分の目で見てください。見れば分かります
この2つを外すだけで、事故のうち「見れば分かる側」はかなり減ります。 内製するなら、ここは覚えて帰ってください。
一方で、「もう書き込まれていないか」「本当に守れているか」を確かめるほうは、そうはいきません。 書くと点検項目のように見えますが、ご自分で確かめられる種類のものではありません。 どちらも「おかしい」という形では現れないからです。エラーも出ず、動作も遅くならず、画面は今日も普通に開きます。普通に開いている画面を見て「大丈夫だ」と判断してしまう——気づけないことのほうが本体です。
ですので、ここはAIが書いたぶん、人の目を残すべき所に回していると受け取っていただくのが正確です。「AIが書いたから確認が要らない」のではありません。 ここを省くと、公開した後に取り返しがつかない形で表に出ます。
やめたほうがいい一線(1)——お客様に出すかどうか

一線そのものは、他人の個人情報を預かって、インターネットに公開するかどうかです。ただ、この聞き方には落とし穴があります。今日の答えは、ほぼ全員「いいえ」になるのです。社内で試している間に預かっているのは、自社の情報だけだからです。
しかし新規事業は、いずれお客様に出します。新規事業なら、1つ目の問い(お客様に出すか)の答えはもう「はい」です。 ですから一線は、今日の二択ではなく、時間の上のどこで越えるかとして見ていただくのがよいと思います。点は3つです。
- 作る前 — 画面1枚で、詰まる場所を先に知る時間です。お客様に出すなら、相談はここです
- 社内で試す間 — 使うのは自分たちだけで、間違えても自分が困るだけです。ここまでは、ご自分でやってください。 中身が分かるようになるのは、この期間です
- お客様に出す時 — ここが一線です。うまくいかなかったときに困るのが、名前と連絡先を預けたお客様になります。しかも、問題が起きていることに当分気づけません
お客様に出すなら、相談のタイミングは、作り終えた後ではなく作る前です。 作り終えてから持ち込まれると、土台から作り直しになることがあります。作る前であれば、どこで詰まりそうかは、最初の画面1枚を見れば分かります。 直すのが1か所で済むか、土台からかは、早いほど小さく済みます。
ここを越えるなら、全部を外注しなくてかまいません。セキュリティの部分だけでも、分かる人を入れてください。 自分たちで作りながら、その部分だけ見てもらう形で構いません。
やめたほうがいい一線(2)——直し続ける人が、社内に1人もいない
1つ目が「いつ」の話なら、2つ目は「誰」の話です。そしてこちらは、お客様に出さなくても起きます。 社内で使うだけの道具でも同じです。
作った後も、使っていれば必ず直す場面が来ます。様式が変わる、使う人が増える、前と違う数え方をしたくなる。直す必要は、作り終えた日から始まります。
問題が出るのは、作った1人が忙しくなったり、辞めたりした時です。中身が誰にも分からない道具が社内に残ります。紙やExcelに戻るならまだしも、戻り方も分からない状態が一番困ります。
見分け方は1つで足ります。「この人が3か月抜けたら、この道具は誰が直しますか」。 名前が出てこなければ、この一線は越えています。しかも新規事業では、作る人=立ち上げ担当になりがちです。その人は、立ち上がったら次の仕事へ移る人です。抜ける前提で、2人目を決めてから始めてください。
この「作り切る前に止まる」「作った後に続かない」という形は、外注した場合にも起きます。進み具合が見えないことの本当のコストは外注した開発、今どうなっているか分かりますかに書きました。
相談するなら、画面のイメージを1枚だけ
「うちは内製でいけるのか」を知りたい場合は、作りたい画面のイメージを1枚だけご用意ください。 手書きのスケッチでも、AIに出させた画面の案でも、似ているサービスのURLでも構いません。ご用意いただくのは、これ1枚だけです。それを見れば、自分たちで行けるところと、どこで詰まるかを、その場でお答えします。記事の130時間や3か月は目安です。御社の場合の数字は、この1枚から出します。
写真やファイルは、[email protected] 宛にメールでお送りいただいても構いません。
「これはご自分で作れます」という見立てになることもあります。 その場合は、使う道具と進め方だけお伝えして終わりにします。
お話ししたことは、そのまま1枚にまとめてお渡しします。 自分たちで行ける範囲、詰まりそうな場所、その場所に来るのがいつ頃か——社内でご検討される際に、ご参照いただければ幸いです。
オンラインでも、名古屋近郊であれば対面でも承っています。
よくある質問
Q. 何から始めればいいですか?
作りたいものの「図面」を先に書くことです。 誰が使うか、どの画面があるか、何ができれば完成か。ここを飛ばしてAIに頼むと、作っては直しを延々と繰り返します。考え方は中小企業のAI導入は、何から始めればいいかに書きました。
Q. AIに頼んでも、同じ間違いを何度も繰り返します。どうすればいいですか?
AIは、前の会話を覚えていないからです。 直したことを、会話の外に文章で残してください。決めごとを書いたファイルを1つ作り、毎回それを読ませてから頼む形にします。「同じことを3回言った」と感じたら、それは自分の記憶の中にしか無いルールです。もう1つは、1回の指示を小さくすること。まとめて頼むほど、せっかく直した所が元に戻ります。
Q. 一度に全部作らせてもいいですか?
できますが、おすすめしません。100%を一度に作らず、1割ずつ作って、そのつど人が触って確かめるほうが結局は速いです。理由はいきなり全部は切り替えないに書きました。
Q. 作った後の面倒は誰が見ますか?
ご依頼いただいた場合は、当社が月々の保守の中で直し続けます。内製なら、作った方です。 これが2つ目の一線ですから、2人目を決めてから始めてください。
Q. 社内の情報をAIに入れても大丈夫ですか?
ご契約中のプランの規約を、その都度ご確認ください。 一般に、法人向けのプランやAPI経由の利用では、入力した内容を学習に使わない扱いが用意されています。ただし扱いは提供元ごとに違い、変わることもありますので、ここは一度ご自分の目で確かめていただくのが確実です。実務の線引きとしては、お客様の個人情報と、外に出せない契約書は入れない。この2つを外すだけで、試す範囲はたいてい足ります。
Q. スマホのアプリにもできますか?
できますが、まずはブラウザで開くWebの形をおすすめしています。スマホのホーム画面に置いて、アプリのように使えます。App Storeに出す形は、専用の環境と審査が要るぶん、時間と費用がかかります。必要になってからで間に合います。
Q. 自分で作ったものを、後から引き取ってもらえますか?
できます。ただ、いちばん小さく済むのは、始める前です。 理由は2つあります。1つは、情報の持ち方(土台)が合っていないまま先に進むと、後から直す所が画面の数だけ増えること。もう1つは、すでに使われている物を止めずに作り替えるほうが、まだ使われていない物を直すより手間がかかることです。ですので、おすすめの順番はこうです。試すのは自分たちで。ただし始める前に、画面1枚だけ見せてください。 試すところを自分たちでやるから、中身が分かるようになります。高くつくのは、お客様に出してから相談に来る順番のほうです。
途中まで作ってある場合も、どこで詰まったかが具体的に見えるので、残りを一緒にやるのか、その部分だけ引き取るのかを、その場で判断できます。
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