住宅営業の打ち合わせ記録と日報が紙のまま——できる営業のやり方が、新人に渡らない
公開 2026/10/19 / 執筆:宇川 和樹(合同会社アプローズプロモーション・名古屋)
新人を、今週もトップ営業の打ち合わせに同行させる。隣に座って、お客様とのやり取りを見て覚えてもらう。
教えたいことは、はっきりしています。最初の打ち合わせで、何を聞いているのか。どこで、何を提案しているのか。 ところが、それを書いたものが会社のどこにもありません。答えは、本人のメモ帳と頭の中にあります。
できる営業のやり方を教えたいのに、本人のメモ帳の中にしかない。 だから新人は、同行して見て覚えるしかありません。
実際に、地域の住宅会社で、お客様との打ち合わせの記録も、日報や月報も紙が中心で、新人を育てる型がまだない——という話を伺ったことがあります。その会社が欲しいのは、できる営業のやり方を溜めて、営業全員に行き渡らせる仕組みだそうです。
先に書いておくと、これは営業支援システムを入れましょう、という話ではありません。 変えるのは、打ち合わせのメモの「置き場所」だけです。
この記事では、なぜできる営業のやり方は新人に渡らないのかと、打ち合わせの記録をお客様ごとに1か所に残す直し方を、費用のかからない順に3段階で書きます。
この記事の要点(先に結論)
- やり方が渡らないのは、教え方や紙のせいではなく、打ち合わせの記録が、お客様ごとではなく担当者ごと(本人のメモ帳)に残っているから。日報は日ごと、月報は月ごとに切れていて、どれを開いても1組のお客様の流れはつながらない
- 直し方は3段階: ①ヒアリングシートの聞く項目を揃える(費用ゼロ)→ ②打ち合わせの記録をお客様ごとに綴じる → ③お客様ごとの画面に記録が積み上がる形にする
- 境目は、似たお客様の前例を探して使いたいかと、日報と打ち合わせの記録を別々に書いているかの2つ
なぜ、できる営業のやり方は新人に渡らないのか
メモは担当者ごと、日報は日ごと、月報は月ごと
打ち合わせは紙のヒアリングシートと手書きのメモ、日報も月報も紙——という形なら、営業の記録は3つの切り方で残っています。
- 打ち合わせのメモは担当者ごと。本人のメモ帳と、本人の手元のファイルに
- 日報は日ごと。その日、誰と会ったか
- 月報は月ごと。件数と数字
ところが、家づくりはお客様ごとに進みます。 1組のお客様と、契約まで何度も打ち合わせを重ねる。新人が知りたいのはいつも「このお客様と、これまでに何を話して、何を出してきたか」です。
つまり、1組のお客様の流れが、メモ帳・日報・月報の3か所に切り分けられて置かれているわけです。どれを開いても、流れの全体はつながりません。
日報が「その日、誰と会ったか」を伝える紙で、月報が数字を伝える表なら、どちらも上に報告するためのものです。次の人にやり方を渡すためには、できていません。だから、日報を丁寧に書かせても、月報を紙から別の道具に移しても、新人にやり方は渡りません。
そして、同行で見られるのは、その日の1回だけです。何度も重なる打ち合わせのうち、新人が隣に座れるのは何回か。1回目に何を聞いて、どこで話が進み、何で決まったか——流れの全体は、全部に同行しないと見えません。
渡せるのは、人柄ではなく「何を聞いて、何を出したか」
「営業は人だから、仕組みにはできない」——その通りの部分があります。話し方、間の取り方、お客様との距離の詰め方。これは同行して、隣で見て覚えるものです。
一方で、書けば渡せるものもあります。
- 1回目の打ち合わせで、何を、どの順番で聞いたか
- 聞いた答えに、次の打ち合わせで何を出したか
- どこで話が進み、何で決まったか(あるいは、何で止まったか)
これは人柄ではなく、記録です。そしていまは、本人のメモ帳の中にあります。
仕組みにするのは、人ではなく、メモの置き場所です。
トップ営業が答える時間は、年に何日ぶんか
記録がなければ、新人は分からないことを本人に聞くしかありません。聞く先は、メモ帳を持っている本人しかいないからです。1回は短いので、見過ごされます。目安として、こう数えてみてください。
- 「このお客様、次に何を出せばいいですか」に答えるのに 1回10分
- 新人1人から1日に 3回なら 30分
- 月20日で 10時間、年に直すと 120時間。1日8時間で数えると 15日ぶん

これは、トップ営業がお客様と話せたはずの時間です。 新人が2人なら、そのまま倍になります。
教えること自体が悪いのではありません。口で教えたことが、どこにも残らないのが問題です。次の新人が入れば、トップ営業は同じ質問に、また一から答えることになります。
いちばん高くつくのは、本人がいなくなったときです。 異動、退職、長い休み。メモ帳は、本人と一緒に出ていきます。やり方だけでなく、担当していたお客様の流れごとです。引き継いだ担当は、ご家族のことやご予算のことを、お客様にもう一度最初から伺うことになります。何か月もかけて話してきたお客様にとって、同じ話を二度するのは、それだけで不安の種になります。
直し方は3段階——変えるのは、メモの置き場所

第1段階: ヒアリングシートの「聞く項目」を揃える(費用ゼロ・今日できる)
トップ営業に、1回目の打ち合わせで、何を、どの順番で聞いているかを書き出してもらいます。それを会社のヒアリングシートの項目に足して、営業全員が同じシートを使います。
これだけで、新人は「何を聞けばいいか」で迷わなくなります。シートを手に同行すれば、「この項目を、トップ営業はどう聞くか」に絞って見られます。
限界は、シートが渡せるのは「何を聞くか」までだということです。聞いた答えに次に何を出したか、どこで決まったかは、シートには残りません。そしてシートは、書いた本人のファイルに綴じられます。それより手前の、書き出してもらう所で止まることもあります。本人に聞いても、「その場の流れで」としか出てこないことが多いからです。
第2段階: 打ち合わせの記録を、お客様ごとに綴じる
ヒアリングシートと打ち合わせのメモを、本人のファイルではなく、お客様ごとのファイルに綴じます。 事務所の棚に、お客様のお名前で並べる。打ち合わせの最後に、「今日聞いたこと・出したもの・次に決めること」を3行書き足してから綴じます。
地味ですが、ここで初めて、新人は同行しなくても、トップ営業が担当してきたお客様の流れを頭から読めるようになります。1回目に何を聞いて、2回目に何を出して、どこで決まったか。
限界は2つあります。1つは、似たお客様の前例を探せないこと。「予算の話で止まったお客様に、何を出したか」を知りたくても、棚のファイルを1冊ずつめくるしかありません。もう1つは、日報と別に書くことになるので、忙しい月に崩れることです。
第3段階: お客様ごとの画面に、打ち合わせが積み上がる形にする
お客様を1組開けば、これまでの打ち合わせ——聞いたこと・出したもの・次に決めること——が日付順に並んでいる状態です。日報もそこに書けば、書くのは1回で済みます。 新人は、似たお客様を探して、トップ営業が何を出してきたかを読めます。
私たちが工務店向けに試作しているのは、現場と見積の側の道具です。営業の打ち合わせのための道具ではありません。ただ、考え方は同じです。現場の道具では、物件の画面に図面・住所・引き継ぎの日報がまとまる形を目指しています。連絡はLINEのままで、変えるのは「後から追う時に開く場所」だけです。
見積も同じ考え方で試作しました。品番を1つ入れると、過去に出した回数・単価・元の見積書まで、一画面に並びます。ベテランの頭の中にあった「いくらで出してきたか」が、事務所の誰でも引ける形になっています。

営業の打ち合わせも、同じ形にできます。 品番の代わりにお客様で引き、単価の代わりに「聞いたこと・出したもの」が並ぶ形です。
現場の日報や図面まで散らばっている場合は、日報はLINE、予定はTimeTree、担当はスプレッドシートに同じ構造を書きました。
よくある質問
Q. 営業支援システムを入れないといけませんか?
いいえ。やり方を新人に渡すのに要るのは、道具の名前ではなく、「何を聞いて、何を出したか」がお客様ごとに残る場所です。営業支援システムを検討する場合も、確かめるのは1つだけです——打ち合わせの記録が、お客様ごとに頭から読める形で残るかどうか。
全部入りの道具を一度に入れると、現場が覚えきれずに、紙へ戻ることがあります。入れる順番の考え方はいきなり全部は切り替えないに書きました。
Q. 営業は人柄やセンスで決まります。記録で伝わるものでしょうか。
話し方や間合いは、記録では伝わりません。 同行をやめる話ではありません。記録で渡すのは、何を聞いて、何を出して、どこで決まったかのほうです。
同行の前に、そのお客様のこれまでの記録を読んでおけば、新人は「今日はどこを見ればいいか」が分かった状態で隣に座れます。 同行の1回が、見学から練習に変わります。
Q. ご家族のことや年収まで書きます。誰でも見られる場所に置いて大丈夫ですか?
先に決めるのは、誰が見られるかです。営業全員が全部を見られる形にすると、まず踏み込んだことが書けなくなります。担当と上司と引き継ぐ人まで、のように範囲を決めてから、置き場所を作ります。紙のファイルでも同じで、棚を誰が開けるかを先に決めておきます。
「道具にする」境目はどこか

第1段階と第2段階は、今日からでも自分たちで始められます。では、どこから先が自分では続かないのか。
1つ目の境目は、似たお客様の前例を、探して使いたいかどうかです。
新人に渡したいのが「このお客様の流れ」だけなら、綴じたファイルを読めば足ります。ところが、本当に渡したいのは「こういうお客様のとき、トップ営業ならどうするか」のほうではないでしょうか。それは1組のファイルではなく、何組ものお客様を横に見比べて、初めて見えてくるものです。棚のファイルは、冊数が増えるほど、めくって探せなくなります。 契約に至らなかったお客様の分も綴じるので、冊数は建てた棟数より多くなります。仮に、年20棟の会社で、商談したお客様がその3倍の年60組なら、3年で180冊です。
お客様の一覧をExcelで持っているなら、そこに列を足せば探せる、と思われるかもしれません。ただ、1組のお客様とは打ち合わせを何度も重ねるので、そのたびの「聞いたこと・出したもの・次に決めること」を積み重ねると、1組1行の表には収まりません。
先に数えた、トップ営業が「このお客様、次に何を出せばいいですか」に答える時間も、前例を探せないかぎり、第2段階では減りきりません。
2つ目の境目は、日報と打ち合わせの記録を、別々に書いているかどうかです。
紙は、1つの向きにしか綴じられません。お客様ごとに綴じれば日ごとには読めず、日ごとに綴じればお客様ごとには読めない。だから日報と打ち合わせの記録を、別々に書くことになります。そして忙しい月に先に落ちるのは、誰にも回収されないほうです。日報は上司が受け取るので出てきますが、お客様のファイルに足す3行は、誰も催促しません。前に入れた道具に、現場が書かなくなったことがあるなら、理由はおそらくこれです。記録が続くかどうかを、人の頑張りに預けている限り、これは繰り返します。
反対に、日報をやめて、上司がお客様ごとのファイルに足された3行を読む形にできるなら、書くのは1回で済み、3行にも読む人ができます。そこまで決められるなら、紙のままで足ります。
もう1つ、紙か道具かとは別に、止まりやすい所があります。社内でできるのは、たいていお客様ごとに綴じるところまでで、たまったメモから「トップ営業は、何をどの順番で聞いているか」を取り出す所で止まりやすくなります。1つ目の境目で書いた「横に見比べる」読み方そのものですが、第1段階で書いたとおり本人は自分の聞き方を言葉にしにくく、読む側も自分のお客様を抱えています。2つ目の境目の3行と同じく、誰にも催促されない作業は、忙しい月に後回しになります。
「うちのトップ営業のやり方は、記録で渡せるか」を知りたい場合は、その方の打ち合わせメモを1枚、お客様のお名前を伏せてご用意ください。 走り書きのままで構いません。お名前の欄に付箋を貼っていただければ十分です。お名前だけでなく、ご年収やご住所、お電話番号なども、隠してからで構いません。1枚あれば、何をどの順番で聞いて、何を書き残しているかが分かるので、お客様ごとに綴じるところまでで足りるか、お客様ごとの画面を作る価値があるかを、その場でお答えできます。
写真やファイルは、[email protected] 宛にメールでお送りいただいても構いません。
「お客様ごとに綴じるところまでで十分です」という見立てになることもあります。 新人に読ませたいのが担当してきたお客様の流れまでで、日報を別に書かずに済んでいるなら、道具は要りません。
オンラインでも、名古屋近郊であれば対面でも承っています。
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