パーソナルジムの紙のカルテは「引き継ぎ」で詰まる——記録を一本化すると、新しいトレーナーが育つ
公開 2026/10/19 / 執筆:宇川 和樹(合同会社アプローズプロモーション・名古屋)
トレーナーが1人辞めると、その人が担当していた会員さんのカルテが、机の上に積まれます。辞めたトレーナーの担当会員を、紙のカルテから読み解くところから始める——次の担当を決めるより先に、この作業が待っています。
字の癖を追い、略語の意味を推し量る。体重と回数は読めても、なぜこのメニューにしたのかは、どこにも書かれていません。
そして、新しく入ったトレーナーが、初めてその会員さんを見た日。会員さんから、こう言われます。「前の人と、言っていることが違いますね」
会員さんの記録を、担当のトレーナーがそれぞれ紙のカルテに書いている。この形のままだと、担当が替わるたびに同じことが繰り返されます。私たちがパーソナルジムさんの業務を見せていただいたときも、詰まっていたのは引き継ぎでした。
この記事では、紙の記録がなぜ引き継ぎで詰まるのかと、その直し方を、紙のままできることから順に3段階で書きます。
この記事の要点(先に結論)
- トレーナーが1人辞めると、カルテの読み解きと初回の聞き直しで、20時間ほどかかります(担当40人の目安)。その半分は、会員さんのセッションの中の時間です
- 詰まる原因は、紙であることより、記録が担当ごとに閉じていて、書いた本人にしか読めないことです。カルテをパソコンに打ち直すだけでは直りません
- 直し方は3段階: ①カルテの書き方と置き場所をそろえる(紙のまま・費用ゼロ)→ ②共有の表に書いて、誰でも読めるようにする → ③会員さんごとのページに、記録を一本にまとめる
- 境目は、担当以外のトレーナーがその会員さんを見る日があるかと、記録をセッションの合間に書いているかです
なぜ、引き継ぎで詰まるのか
紙のカルテは、担当のトレーナーが、自分で読み返すために書く記録です。だから、担当が替わらない間はうまく回ります。略語も矢印も、書いた本人には一目で読めます。「なぜこのメニューにしたか」は、書かなくても本人の頭に入っています。
詰まるのは、書いた人と読む人が別になったときです。パーソナルジムでは、次の3つの場面がそれに当たります。
- トレーナーが辞めたとき。 カルテに書かれていなかった理由は、辞めた人と一緒にいなくなります
- 担当の休みの日に、別のトレーナーが入るとき。 棚からカルテを探し、読めるところだけ読んで、セッションに入ることになります
- 新しいトレーナーが入ったとき。 先輩の記録を手本にしようにも、書き方が担当ごとに違えば、どれに合わせればいいか分かりません
つまり詰まるのは、紙だからというより、記録が担当ごとに閉じているからです。カルテをパソコンに打ち直しても、書く欄と書き方が担当ごとのままなら、読めるのはやはり書いた本人だけです。
業種は違いますが、これは日報はLINE、予定はTimeTree、担当はスプレッドシートに工務店の例で書いた、「その場にいなかった人が後から追う」場面と同じ形です。
1人辞めるたびに、何時間かかっているか
1冊ずつなら、たいした時間には見えません。目安として、こう数えてみてください。会員さん200人をトレーナー5人で見ているなら、1人の担当はおよそ40人です。
- 前の担当のカルテを1冊読み解くのに、15分。40人ぶんで10時間です
- 新しい担当は、初めてのセッションで「これまでのこと」を聞き直します。1人15分として、40人ぶんでもう10時間
- 合わせて、1人辞めるたびに20時間です

ただし、この20時間は、同じ種類の時間ではありません。前半の10時間は、オーナーやトレーナーがカルテを読み解く時間です。1日8時間で数えると、1日と2時間ぶんです。
後半の10時間は、ジムの側の時間ではありません。 会員さんがお金を払って来ている、セッションの中の時間です。1回60分のセッションなら、10本ぶんが、トレーニングではなく聞き直しに使われます。
しかも同じ読み解きは、辞めたときだけでなく、担当が休みの日に別のトレーナーが代わりに入るたびにも起きています。そしてこの20時間には、担当が替わったのをきっかけに会員さんが離れてしまった場合の損は、入っていません。
高くつくのは、時間よりも「前の人と違う」のほうです
20時間は、数えれば見えます。見えにくいのは、会員さんの側に残る迷いです。
前の担当と決めていた食事の目標が、新しい担当に伝わっていない。前の担当が避けていた種目を、新しい担当が初回から入れる。会員さんから見ると、どちらの言うことを信じればいいのかが分からなくなります。
パーソナルジムの値打ちは、自分の体のことを分かっている人に見てもらえることにあります。「前の人と言っていることが違う」は、その値打ちが揺らいだという合図です。この損は件数を数えられないので、実際より小さく見積もられがちです。
そしてもう1つ。新しい担当から「この会員さん、前はどうでしたか」と聞かれるのは、オーナーです。辞めた人の担当をいちばん知っているのが、一緒に働いていたオーナーだからです。引き継ぎの穴は、最後はオーナーの時間で埋まります。
直し方は3段階

第1段階: カルテの書き方と置き場所を、全員でそろえる(紙のまま・費用ゼロ・今日できる)
いまのカルテにある体重・食事・トレーニングの欄は、そのままで構いません。足すのは2つの欄だけです。
- このメニューにした理由(例: 膝に不安があるので、しゃがむ種目は浅めから)
- 会員さんと約束したこと(例: 夕食の炭水化物は、まず半分から)
引き継ぎで消えるのは、数字ではなく、この2つです。数字はカルテに残りますが、理由と約束は、書かなければ担当の頭の中にしか残りません。
あわせて、書き方と置き場所もそろえます。 略語を使うなら、一覧を1枚にしてカルテの棚に貼る。カルテを担当ごとに持っているなら、会員さんごとに1か所の棚へ移す。これだけで、読み解く時間も、初回の聞き直しも短くなります。
ただし、これで減らないものがあります。 紙のカルテは1冊しかありません。代わりに入るトレーナーは棚の前で読むしかなく、体重の推移を見るにはページをめくることになります。そして忙しい日ほど、足した2つの欄は空欄のままになります。書く場所が、次の会員さんが待っているセッションの合間だからです。
第2段階: 共有の表に書いて、誰でも読めるようにする
Googleスプレッドシートのような、無料で始められる共有の表に、会員さんごとの記録を書きます。トレーナーはスマホから書き込み、誰でも、ジムの外からでも読めます。 トレーナーが辞めても、表はジムに残ります。体重の推移も、表からグラフにできます。
限界は、書く手間がセッションの合間に乗ってくることです。 スマホで表の細かいマスに数字を打つのは、セットの合間には難しい作業です。結局、紙にメモして夜に表へ写すことになり、写しそびれた日の分だけ表が欠けます。引き継ぎのときに読める記録が、また無くなります。
もう1つは、表がだんだん崩れていくことです。200人ぶんの記録が積み上がるうちに、書き方が人によってずれ、写しが増え、どれが最新か分からなくなります。この崩れ方は、Excelの顧客台帳、どれが最新か分からないに書きました。崩れた表を直す係は、オーナーに固定されます。
第3段階: 会員さんごとのページに、記録を一本にまとめる
会員さんを1人開くと、体重の推移・食事・トレーニングの記録・理由と約束・これまでの担当のメモが、1つのページに並ぶ。 セッションの合間には、前回のメニューを呼び出して、変わった数字だけを直す——という道具にする段階です。読める範囲はトレーナーごとに決められ、辞めた人は、その日から読めなくできます。
ここまで来ると、新しいトレーナーは、初めてのセッションの前に、その会員さんのページを読んでから入れます。 「前の担当から、膝に気をつけるように聞いています」と、最初のひと言で言える状態です。先輩の記録が同じ形で並んでいるので、新しい人にとっては、そのまま指導の手本にもなります。
私たちがお手伝いしたパーソナルジムさんも、会員さん約250人の記録が紙のカルテでした。トレーナーの求人を出していたジムさんです。業務を見せていただくと、引き継ぎが大変な状態でした。そこで手を付けたのが、記録を一本にすることでした。
求人は、新しい人を迎えるための手立てです。迎えた人が、会員さんの過去を読んでから指導に入れるかどうかは、記録の側で決まります。
「道具にする」境目はどこか

境目は2つあります。紙のままでいいかと、自分たちの表で続けられるかです。
1つ目は、担当以外のトレーナーが、その会員さんを見る日があるかどうか。
オーナーお一人で全員を見ていて、担当が替わることがないなら、第1段階で足ります。カルテは書いた本人が読むための記録なので、字の癖も略語も、本人には読めます。トレーナーが2人以上いて、辞める・休む・新しく入る、のどれかが起きるなら、書く人と読む人が別になります。 ここで、カルテを誰でも読める形にする必要が出てきます。
2つ目は、記録をセッションの合間に書いているかどうか。
セッションのあとに落ち着いて書けるなら、第2段階の共有の表で回ります。合間に書いているなら、第2段階の限界にそのまま当たります。 表は写しそびれた分だけ欠け、崩れた表を直す係はオーナーに固定されます。
書く手間を、セッションの合間でも終わる大きさまで小さくする。ここから先は、ルールや表ではなく、道具の仕事です。
市販のカルテアプリや、いまお使いの予約アプリのカルテ機能で足りる場合もあります。確かめるところは2つです——第1段階で足した「理由」と「約束」を書く欄を作れるか、予約と記録で同じことを二度打たずに済むか。ただ、この2つはアプリの紹介ページだけでは分からないことがあり、試しに会員さんを1人登録して、セッションの合間と同じ手順でやってみないと確かめにくいところです。お使いの予約アプリの名前を教えていただければ、そのアプリで足りるかどうかも、あわせて見立てます。
では、「道具にする」と決めたら、何が起きるのか。 一度に全部を入れ替えるわけではありません。
- 最初に動かすのは、カルテだけです。 予約を予約アプリやLINE、台帳で受けているなら、それはそのまま残します
- 第1段階で足した「理由」と「約束」の欄は、そのまま道具の入力欄になります。 紙の上でそろえた書き方は、無駄になりません
よくある質問
Q. いまある紙のカルテを、全部打ち直すことになりますか?
いいえ。過去の紙のカルテは、そのまま棚に残します。道具に移すのは、いま通っている会員さんの「理由」と「約束」と、直近の数字だけで足ります。新しい記録は、その日から道具に書いていきます。
Q. セッション中にトレーナーがスマホを触ると、会員さんに失礼になりませんか?
書くのは、セットの合間に数字を直すだけです。画面を会員さんに見せながら「スクワットの重さが、前回より2.5キロ上がっています」と伝える使い方もできます。紙のカルテをめくって見せるより、推移が一目で伝わります。
Q. 会員さんの体重や食事の記録を、スマホで扱って大丈夫でしょうか?
誰が読めるかを決められるのは、紙より道具のほうです。 紙のカルテは、棚を開けた人なら誰でも読めます。
「うちのカルテでも、引き継げる形にできるか」を知りたい場合は、いまお使いのカルテを1枚、会員さんのお名前を伏せてご用意ください。 あわせて、トレーナーの人数と、会員さんのおおよその人数、お使いの予約アプリの名前だけ教えていただければ十分です。欄の作りとアプリの名前が分かれば、いまの予約アプリやカルテで足りるか、カルテのどの欄をそのまま道具に移せるかを、その場でお答えできます。欄の作りを見るためなので、記入前の白紙のカルテでも構いません。
写真やファイルは、[email protected] 宛にメールでお送りいただいても構いません。
「いまの紙のカルテのままで十分です」という見立てになることもあります。 オーナーお一人で全員を見ていて、担当が替わることがないなら、道具は要りません。トレーナーが複数いるジムでも、セッションのあとに落ち着いて書く時間が取れているなら、第2段階の共有の表で足りる、とお答えすることもあります。
オンラインでも、名古屋近郊であれば対面でも承っています。
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